2.数学屋ほん舗のMBD

 数学屋ほん舗のMBDは,超精密機械の代表ともいえる半導体露光装置を対象に始めました.そういう経緯からも,やはり精密機械のMBDに適していると思います.
 半導体露光装置のみならず,精度を求められる精密機械の多くは,より高い品質や性能が求められ続ける宿命にあります.ゼロからスタートする全く新しい製品であれば,初期設計で1DCAEを利用するのは賢い方法です.しかし,殆どの場合は,旧製品を改良した新製品ですから,1DCAEよりも旧製品の3DCAEモデルを使う方が適しています.ところが,旧製品の3DCAEのモデルを使おうとすると,まず,モデルと製品の乖離が大きいという問題に直面します.何しろ,設計終了時から利用していない3DCAEモデルでは,実機との比較検証などは行っていません.また,試作後の設計変更もモデルに反映していません.つまり,実機と近い結果を期待できるほど,信頼できるモデルではないのです.加えて,モデルの規模が大きいため,モデルの修正期間も演算時間も長く,短期間で方針を決める初期設計では使い物になりません.
 かつて,半導体露光装置の開発では,このような事態を幾度となく繰り返しており,スマートな開発とは程遠い状態でした.そこで,この状態を脱却するため,理想のシミュレーションについて研究しました.結論は単純でした.予測精度と演算時間のバランスがとれた,使いやすいシミュレータを作れば良いのです.
 もちろん,いきなり理想のシミュレータを作ろうとしても,それは無理です.重要なのはそれを作り上げるアプローチです.候補として考えられるアプローチは二つでした.第一は予測精度の高いモデルを作ってから高速化するアプローチ,第二は演算時間の短いモデルを作ってから予測精度を上げるアプローチです.
 多くの人は予測精度を重視するので,どうしても第一のアプローチを選択しがちです.しかし,これは実機実験データとの比較とモデル調整に多くの時間を費やすので,実のところ現実的ではありません.半導体露光装置でなかなかスマートな開発ができなかったのは,正しくこれが原因でした.
 一方,第二のアプローチであれば,モデル調整時間が短くなるので,最終目標とするモデルに近づくのは,少なくとも前者より容易です.最初の予測精度は少々悪くても問題ありません.モデルのパラメータ感度を把握すれば予測精度は意外と容易に改善できます.
 このとき,実際の設計値を勝手に変更してはいけません.パラメータ値の情報を提供した設計者とよく相談してください.この作業を繰り返すことで,モデルはよりよくなってゆきます.
 同時に,シミュレータにとって重要なのは,モデルの特性を理解できることと,演算速度が速いことです.この2点で,モデルを線形化するのはとても意味があります.モデルが線形であれば,入出力応答特性を明瞭なボード線図で示すことができますし,演算速度は非線形シミュレーションの何千倍も速くできます.
 ただし,大きな欠点もあります.それは,1つのモデルで製品の形状や姿勢の変化を表現できないことです. この欠点を克服するには,多数のモデルに分割して近似するしかありません.多数のモデルを1つ1つ人手で作るのは無理ですから,モデルを自動生成するツールを準備する必要はあります.しかし,技術的に不可能ではありませんし,数学屋ほん舗のMBDツールでは,既にその準備ができています.
robot2  さて,いくらここで素晴らしいと書いても,皆さんに実感して頂くのは難しいと思います.そこで,具体的で詳細な例を示すことで,その優れた点をご理解頂きたいと考えました.できれば,生々しい実例を紹介するのが一番でしょうが,お客様の事情もあります.
 そこで,フリーの 1DCAEツールであるOpenModelicaを用い,その例題に登場するロボット(右図)を実例に見立て,数学屋ほん舗の精密機械モデルベース開発をご紹介することにしました.
 ここでは,(1)~(3)の順に説明してゆきます.

(1) OpenModelicaのインストールとシミュレーション
(2) SuugakuyaSimでのモデリング
(3) OpenModelicaとSuugakuyaSimの実行結果比較

 数学屋ほん舗のMBDでは,Matlab&Simulinkでシミュレータを作ります.そのため,OpenModelicaで作ったシミュレータは,モデル検証に利用することはあっても,主体的に使うことはありません.
 しかし,OpenModelicaは,1DCAEで唯一の無料ソフトであり,誰でも気楽に使える割にとても優れた性能を持っています.詳細なモデルを作ろうとすると,他の有料アプリには叶わないらしいですが,そもそも1DCAEで詳細なモデル作ろうとすること自体が本末転倒な気がします.比較的簡単なモデルを作ってみては,その特徴を定性的に把握するような使い方をするのが賢いと思います.
 話を本題に戻しましょう.数学屋ほん舗のMBDは,概念設計とか基本設計とか構想設計とか,具体的な詳細図面を作成する前の段階で使う1DCAEとは異なります.また,詳細設計段階で使う3DCAEとも異なります.1DCAEも3DCAEも開発工程の上流と言われる工程で使うものですが,その名であるAided(援用)が示すように,設計を手助けする手段です.
 一方,数学屋ほん舗のMBDは,設計だけでなく試作製造段階でも使用し,さらに次期製品の1DCAEとしても利用します.つまり,全ての開発工程で途切れることなく使用します.MBDと言っても,実際にはシミュレータに過ぎませんから,3DCAEと区別がつかないと言われますが,3DCAEとはモデルと実機の優先順位が異なります. 3DCAEの場合,モデルは実機の代用ですから,実機優先になります.一方,数学屋ほん舗のMBDは,実現可能で要求仕様を満足するモデルを作り,そのモデルに近づくよう実機を作るという思想ですから,モデルが優先です.この考え方の違いが一番大きいと思います.モデル優先の思想ですから,モデルの責任は重く,その信頼度は高くなければなりません.だからと言って,シミュレータの予測誤差を小さくしようとモデルを精緻にしてはいけません.精緻なモデルはモデルの修正や演算時間を長くし,シミュレータを使いにくくします. 「使いにくくても予測精度が第一だ!」というのが正しいように思えますが,実は大間違いです.シミュレータに限らず,品質の良い製品は,愛用されるものです.多用されればクレームも多くなりますが,それに対応することで品質が向上し,さらに愛用されるのです.もちろん,シミュレータの予測誤差は小さい方が良いですが,それより重要なのは,実機完成後でも利用され続けることなのです.しかし,実機実験よりも多くの時間が必要なシミュレーションは,実機完成後に利用されることはありません.全てにおいて実機で試す方が良いと思われるからです.使われなければ,改良される機会もありませんから,良いシミュレータにはなりません.一方,実機実験よりも短時間にお手軽に結果を出せるのであれば,まだ利用価値があります.実機実験の失敗リスクを下げるための予備実験に用いることができます.こうして使い続ける中で,モデルの品質を高めてゆけば良いのです.

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